離婚というのは人生において大きな決断です。離婚の理由が借金だった場合は気軽に人に相談できず、一人で悩みを抱えている人も多いと思います。
状況によって異なりますが、借金を理由に離婚することは不可能ではありません。この記事では、離婚に向けて借金問題をどのように解決していくべきか、ケース別の対策法を解説します。
「借金を理由に離婚ができるケース」「離婚前に精算できる借金」など、多くの知識を備えておくと、離婚に向けてどのような準備をしておくべきかがクリアになってきます。ぜひ参考にしてみてください。
借金を理由に離婚できる?
借金の理由だけではなく、夫婦の話し合いが可能かどうかによってもその後が変わってきます。状況別にご紹介しましょう。
お互いに納得できるなら離婚ができる
夫婦がお互いに「借金を理由にした離婚に納得」できれば離婚は可能です。話合いで離婚する方法を「協議離婚」と言い、離婚届を役場に提出するだけで成立します。
ただし、お互いの合意がなければ協議離婚は成立しません。相手とのコミュニケーションが取れない、一方が離婚を拒否する場合は、協議離婚の成立が難しいでしょう。
借金が理由にならない場合も ある
夫婦の方向性が一致しない場合は、借金を理由にした離婚が難しくなります。協議離婚が困難な場合は「調停離婚」へと進み、離婚裁判にまでもつれ込めば法律上の離婚理由が必要になるからです。
調停離婚の場合は、時間が掛かっても両者の合意が得られれば離婚が成立します。
離婚裁判に至っては、民法770条1項各号に定める「不貞、悪意の遺棄、3年以上の生死不明、回復しがたい強度の精神病、婚姻関係を継続し難い重大な事由」のいずれかを満たす必要があります。
たとえば、借金を理由に妻に生活費を渡さなかったり、モラハラやDVがあったりする場合は「婚姻関係を継続し難い」と認められ、離婚が成立します。
ギャンブルや結婚前の借金はケースによる
ギャンブルや結婚前の借金が離婚の理由となるかどうかは、ケースによります。
ギャンブルのために借金をし、生活費を渡さない、定職に就かないというケースには裁判離婚でも正当な事由となります。一方で単にギャンブルによる借金があるというだけでは事由にあたりません。
また、結婚前の借金では、事実を隠していた行為が「悪意のある行為」とみなされ、離婚が認められる傾向にあります。詐欺とまではいきませんが、結婚前に借金の存在を知っていれば、「結婚しない」という選択ができたためです。
しかし、借金の存在を知りながら結婚した場合は、離婚できる正当な理由として取り扱えない可能性が高いので注意しましょう。
相手の借金を負わないために
離婚できる状況にあることが確認出来たら、相手の借金を負わないためにはどうすれば良いかを考えましょう。ご紹介する方法は相手の協力が必要になります。話し合いが持てる関係性を維持するように心がけましょう。
保証人から外してもらう
相手の借金の保証人になっている場合は、外してもらうよう頼んでみましょう。婚姻関係がある間は相手の仕事の有無や収入など、状況を把握することができますが、離婚してしまうと分からなくなる場合がほとんどです。
離婚後しばらくして督促状が届いたことにより、相手が仕事を辞めた、収入がなくなったなどの状況変化を知ることになります。とくに住宅ローンを組む際に配偶者が保証人になるケースが多いため、確認しておきましょう。
相手の両親や兄弟など、あなたと同程度、またはそれ以上の信頼が得られる人物や担保を確保することができれば、金融機関の了承を得ることができます。
債務整理を検討する
相手の借金額が大きく、返済が不可能な場合には債務整理を検討してみましょう。合法的に借金を減らすことができ、以下の3つの手続きがあります。
- 任意整理:債権者と交渉することにより、遅延損害金をカットしたり月々の支払額を減らしたりすることができる。
- 個人再生:裁判所を介して手続きを行うため手間はかかるが、借金の元本を減額でき、家や車を手元に残すことも可能。
- 自己破産:裁判所ですべての債務を免除してもらう手続きだが、財産は没収されてしまう。
いずれの手続きも、借金問題を根本的に解決できますが、手続きに必要となる借金の理由や金額、借入先、抵当権や保証人などを明確にしておく必要があります。万が一離婚を思い留まって、生活再建を考える場合にも必要となる情報です。
借金情報が分かれば財産分与から控除できる
借金情報が分かれば財産分与から控除できるため、正確な金額を把握しましょう。借金額を明確にするためには、相手の協力が必要です。
負債残高が記された明細書、借用書などがあれば借金額や内容を知ることができます。たとえば300万円の借金が明確になった場合、500万円の預貯金があれば差し引いた額「200万円」が財産分与の対象です。
一方で差し引いた額がマイナスとなってしまう場合には精算すべき財産がないとして、財産分与から控除できません。よって借金があって離婚を考えている場合には、プラスの財産と借金額を明確にしておくことをおすすめします。
相手の借金を負わなければならない場合
相手の借金は、基本的に名義人でなければ返済義務が生じることはありません。つまりは当事者や連帯保証人となっていない場合には、返済義務は発生しないのです。
しかし「夫婦の生活費としての借金」「夫婦の財産取得が目的の借金」においては財産分与の対象になります。子供の学費や医療費、住宅ローンなどは借金を負わなければならないことがあるため確認しておきましょう。
- 趣味や娯楽、結婚前の借金は、あくまでも相手の問題
- 生活費や学費、住宅ローンは、夫婦二人で乗り越えていかなければならない問題
借金がある場合の慰謝料と養育費
支払いの状況によっては、これまでの生活環境を見直す必要があります。それぞれ細かく見ていきましょう。
慰謝料が取れるとは限らない
慰謝料について支払いの必要性があるかどうかは、各家庭の状況によって変わってきます。慰謝料が発生するケースと発生しないケースについて具体的に考えていきましょう。
慰謝料が発生するケース
慰謝料が発生するケースというのは、相手の浮気やDVが典型的な例です。借金がある場合の慰謝料は、相手から苦痛を受けたことの代償として支払われ、多くの場合50~300万円です。
相手の借金が原因で離婚する場合には、借金の原因を突き止め相手のみに責任があることを明らかにしなければなりせん。相手が浮気相手に貢ぐために借金を繰り返していた、借金が原因で相手からたびたび暴力を受けることがあったという場合には支払いを認められる可能性は高いでしょう。
裁判所でも慰謝料が発生するかどうかは、ケースバイケースの判断になります。該当する場合には、専門家に相談することでその後の見通しが立ちやすくなりますよ。
慰謝料が発生しないケース
「婚姻関係を破綻させる原因」が明らかにならない場合には、慰謝料が発生しないケースもあります。借金や浪費癖があっても夫婦が生活をしていくことに影響がなければ、慰謝料の支払いは認められません。
相手の借金が発覚しあなたが不信感を持った、借金が原因で夫婦の価値観の違いが露呈したという場合には慰謝料が発生しないことがほとんどです。
しかし相手が借金のためにあなたのクレジットカードを利用したり、子供の貯蓄に手を付けていたりと悪質な場合には慰謝料が発生します。よって実害が生じているかどうかは、専門家に相談すべきかの判断基準になるでしょう。
養育費は相手の支払い能力次第
借金がある場合でも、養育費の支払い義務が生じます。債務整理した場合でも、養育費は子供の最低限の生活保障という位置づけになるため、子供が成人するまで支払いを続ける義務があります。
しかし相手やあなたが再婚した場合、収入の増減があった場合など、状況によっては養育費の金額を見直すケースも出てきます。「養育費減額調停」と呼ばれる手続きでは、家庭裁判所で裁判官、調停員と一緒に解決方法を探ります。
離婚調停と同様、万が一養育費減額調停でお互いに合意が得られない場合には、養育費減額審判を行って決着をつけることになるのです。
夫婦の借金はどうなる?
夫婦で借金をしている場合、離婚する際にはどのようになるのでしょう。自分に返済義務が課せられる場合もあるため、基本的な部分を確認しておきましょう。
基本的に名義人に返済義務がある
離婚する際には、夫婦で作った借金でも基本的には名義人に返済義務が生じます。よって名義人ではない夫婦のどちらか一方が借金を一部、または全面的に負担することはありません。
たとえ離婚の際に財産分与を行い、負債しか残らなかった場合でも、名義人ではない夫婦の一方に借金を負わせることは認められていないのです。
しかし万が一あなたが知らないところで、相手があなた名義で借金をしていた場合には、債務の取り消しを行うことは難しいでしょう。相手があなたの名義を無断で使用したという証拠や経緯をそろえ、弁護士に相談することをおすすめします。
生活に関わる借金は折半される
夫婦で作った借金でも「生活に関わるものであれば折半される」と民法760条で定められています。生活に関わる借金とは、具体的にはマイホームや自家用車、保険料や家具、家電などです。
一方で婚姻中であってもギャンブルや趣味などで生じた借金は、財産分与に含まれることはありません。
財産が債務より少なくマイナスの状態の場合には、借り入れをしていない配偶者に債務が引き継がれることはないので安心してください。ただし、同時に 該当する財産分与も受け取れないので注意が必要です。
親族間の借金はどうなる?
離婚する際に、親族間で生じた借金はどうしたら良いのでしょう。借用書を作っているケースは少ないため、トラブルに発展することがあります。知識として、基本的な部分を抑えておきましょう。
夫婦間の借金には返済義務が生じる
夫婦間で金銭の貸し借りをしていた場合は、離婚をする際に返済義務が生じます。金銭を貸す方は、婚姻前の預貯金から出資する傾向があるためです。
借金額が大きく一括返済が難しい場合には、離婚の手続きと同時に借金の返済条件について契約を結んでおくことをおすすめします。相手の毎月の収入が不定期である場合や、ローンがある場合などには、相手の両親を連帯保証人として返済契約を結ぶケースもあります。
両親からの援助は財産分与で精算できない
両親からの援助を受けたお金は、財産分与で精算することができません。援助してもらった側の特有財産となりますが、すべて精算するのは困難です。
住宅資金の場合は今の不動産価値から判断して、親からの援助分を財産分与で精算してもらうケースもあります。ただし法的にいう「消費賃貸契約」がない場合は「援助」という判断になります。
対して両親との間で借用証がある場合には、個人対個人の法律問題になるため、離婚とは別に解決の糸口を探ることになるでしょう。銀行の入出金記録や取引履歴が必要になる事も多いため、「精算は難しい」と覚悟しておきましょう。
まとめ
借金を理由にして離婚できるかどうかは、状況によって異なります。保証人から外してもらったり、債務整理を検討したりすることで相手の借金を負わずに済む方法もあるため、大きくこじれてしまう前に話し合いをできる関係性を築いておくことが大切です。
また生活を営むのに必要な借金は折半しなければならないケースもあるため、相手の借金情報を知っておくことはその後の事態がどう転んでも必要になります。養育費は支払いの義務がありますが、慰謝料は「悪意のある行為」がなされているかによって判断されます。
離婚という大きな決断を、借金問題も精算できるチャンスととらえて、新たな一歩をクリアな気持ちで踏み出しましょう。